2023.11.22
がん研有明病院と連携し、乳がんの症状管理を目的とした臨床研究を開始しました
公益財団法人 がん研究会有明病院(がん研有明病院)と株式会社インテグリティ・ヘルスケアでは、術前薬物療法を受ける乳がん患者さんの円滑な副作用管理・セルフケア促進を目的として開発したアプリケーション「YaDoc乳がん術前薬物療法管理プログラム」を用いた臨床研究を開始しました。
アプリケーション開発の背景
乳がんは、乳腺の組織にできるがんで、2019年の全国がん登録データによると97,142人が乳がんに罹患しており、これは全部位の22.5%を占め、女性の癌の中では最も頻度が高い部位になります。(※1)乳がんの治療方法には手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法があり、中でも手術は基本的な治療法として、がん研有明病院でも1,475件の手術を実施しています。(※2)
患者さんの状態によっては、手術に先立ち薬物療法を行う治療方法(術前薬物療法)が選択されることがあります。術前薬物療法は、患者さんごとに最適な薬剤や療法を選択する必要がありますが、外来での治療が主流となる昨今、治療中の患者さんの状態を正しく把握することや、患者さんが必要とする情報を適時適切に伝えることの困難さがありました。そこで、これらの解消を目指した「乳がん術前薬物療法管理プログラム」を開発するに至りました。
※1 引用 国立研究開発法人国立がん研究センター 全国がん統計
※2 がん研有明病院ホームページ>診療科・部門紹介>乳腺センター>診療・研究実績
臨床研究の概要
今回実施する臨床研究では、開発したアプリケーションのアドヒアランス(継続率)を測定することを主要評価項目におき、実際の患者さんにおいてどの程度使用されうるかを明らかにすることを目的としています。また、終了後には患者さん・医療従事者にアンケートを実施し、診療におけるアプリケーションの満足度を評価いたします。
「乳がん術前薬物療法管理プログラム」について
「乳がん術前薬物療法管理プログラム」は、インテグリティ・ヘルスケアが開発/提供するオンライン疾患管理システム「YaDoc(ヤードック)」上に開発されました。YaDocは、患者さんがスマートフォンアプリケーションにて症状等を入力しタイムリーに医師が結果を閲覧できる機能を基本とし、疾患個別に定義した問診・症状の入力やオンライン診療、pdfのライブラリ閲覧機能等を有する疾患管理システムで、これまでも多くの疾患に応じた管理プログラムを開発し、臨床研究で用いられてきました。
今回開発した乳がん術前薬物療法管理プログラムでは、療法ごとにいつ・どのような副作用が出てきやすいかを示し、また患者さんが副作用症状の程度や服薬の状況を症状毎の設問にスマートフォンアプリを通じて回答すると、副作用発現状況が医療従事者へ伝達されるとともに、アプリケーションからその内容に応じて病院への連絡を促すなどのフィードバックメッセージが送られます。また、副作用ごとにどのようなセルフケアを行えば症状が緩和するかといった情報提供を行うことも可能で、「患者さんへの事前の情報提供」「副作用発現時の対応方法提供」「医療従事者への共有」の機能により、術前薬物療法の円滑な実施に寄与します。
(研究代表者)がん研有明病院 乳腺内科 副部長 原 文堅様
乳がんにおける術前薬物療法は手術の前に抗がん剤などの治療を行い、腫瘍の縮小と微小な転移の根絶を目的に実施される治療です。薬物療法による治療中には様々な副作用が起こり得ることが知られておりますが、選択される療法や製剤により、また個人の特性により、その程度や発現タイミングは異なります。まれではありますが、治療の中断や中止に繋がりかねない副作用が発現することもあります。
当院では従来医師、看護師等の医療従事者が様々な紙ベースの資料を用いて、起こり得る副作用症状の説明、ケアの方法、重症化が疑われる症状の程度やその場合の連絡手段等について患者さんに説明してきました。しかしながら、限られた診療時間の中で患者さんの副作用を正しく把握できているのか、患者さんが求める的確な説明や情報提供ができているのか等、課題がありました。
また患者さんにおいても、従来紙ベースの治療日誌を用いて、日々変化する自身の身体の状態を記録することに取り組んでいただいておりましたが、記録の手軽さや振り返りのしやすさ、視認性や携帯性という面で改善の余地があると感じていました。
近年、スマートフォンが普及したことにより、スマートフォンのアプリケーション(アプリ)を用いた患者さん自身による症状評価の導入が進んでいます。患者さんが治療中に感じている症状など、他の誰からの評価も含まれない報告を、スマートフォンなどを使用して電子的に行うものです。これを用いることでご自身の症状を簡便に記録でき、またアプリに表示される副作用予報 や各症状に対するケアのポイント等の情報を自身の症状管理に役立てていただくことができると期待しています。
患者さんが入力した副作用症状は医療従事者も専用のウェブ画面を通じて確認できるため、症状の程度やその推移について的確に把握し、必要な場合には早期に追加対応を行うことで、治療の中断や中止を回避できる可能性があるのではと考えています。
この研究が多くの乳がん患者さんの抗がん剤副作用管理に役立ち、予後の改善に繋がる第一歩となることを願っています。
プレスリリースも合わせて公開しております。是非ご覧ください。(インテグリティ・ヘルスケアのコーポレートサイトへリンクします)
- 導入事例